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治療を卒業して

未妊治療を卒業して3年が経とうとしています。
本当なら治療を卒業することを卒業を決断した段階でゲストの皆様に
ご報告すべきだったと思います。

未妊治療を終わった段階で、自分の気持ちを持て余していて
気持ちの整理がきちんとついていませんでした。
3年の月日を経てようやく、この場をお借りして卒業報告をしたいと思います。

治療中の私は、未妊治療を卒業=妊娠・出産と漠然と考えていました。
出来ることなら、未妊治療をがんばってきた仲間に
「天使が我が家にもやってきたよ」という報告がしたかったです。

でも、違った形、「子供がいない夫婦の形」での未妊治療の卒業となりました。

今、ダーも私も新たなふたりのあゆみを始めています。
もちろん、小さな家族も一緒です。
未妊治療から離れて今、穏やかな気持ちで毎日を過ごしています。

治療中の自分たちを振り返ってみると、本当に苦しかったんだなと思っています。
子供が出来る、天使が舞い降りるというのは、自分達の努力だけでは
どうしようもないことだったと今では理解できていますが、
当時は、諦めないでがんばること=結果(妊娠)を固く呪文のように信じて
治療に邁進するしかなかった私たちを今では懐かしい気持ちで見つめています。

未妊治療は今ではめざましい発達や進化を遂げてはいますが、
医療スタッフが手を貸せるのは、受精・分割した胚をお腹に戻すことまでで、
着床からその先のメカニズムは現時点では、100%解明したわけではないのです。
だから、ここからはまさに神の領域と言えるでしょう。

しかしながら、自分たちに子どもが出来ない原因が発覚した頃、
精子や後期精子細胞さえ見つかってくれれば授かるだろうと簡単に考えていました。
きっと主治医はこの治療の最後の砦なのだから大丈夫とたかを括っていました。
そして、実際に精子細胞が見つかった時は、これで子供が出来ると
希望にあふれていました。

しかし、治療を受けるメインが私に変わり、細胞ICSIを受けては結果が出ないという
時期を過ごす中で、多くの希望と絶望を繰り返してきました。

ある時は、こんなに辛い治療をすることになった自分達の運命を嘆きもしましたし、
いっそ授かれないのなら原因なんて知らなければよかったと泣いた日々もありました。

治療の結果が出なかった時なんかは、
どうしてこんなに努力しているのに、辛い注射や投薬をがんばっているのに
どうして授からないの?
どうして私たちがこんな目にあわないといけないの?
もうこんな苦しい思いをしてまで辛い思いをしてまで治療をするのは嫌だ。
でもまだストックがあるんだから諦めるのも嫌だ。
というような気持ちが拮抗し、幸せそうにお腹を撫でる妊婦さんを羨み妬み、
仕事をこなしながらの通院、薬の副作用、高額な治療費に振り回されて、
あの頃は今のように気持ちが穏やかになる日は本当に少なかったような
気がしています。

そして思い通りになってくれない自分の体や治療をしてもどんなにがんばっても
子供が出来ない事の苦しさや悲しさ、治療に結果が伴わなかった時の苦しみを
身内に共感してもらえないというもどかしさ・・・。

またある時は、もっとがんばればいい。できるだけのことをしたらきっと。
という前向きな気持ちで過ごす日々もありました。

胚移植直後は、頭の中で出産する日を夢見て、いつ頃に産まれる!と計算したり
お腹を撫でては話しかける、本当に極々普通の妊婦さんのように
幸福な日々を過ごすこともありました。

そして、治療失敗後には、多くの未妊仲間に励まされては勇気と希望を持ちなおし、
もう一度治療に向おうという気持ちになることもたくさんありました。
本当に多くの仲間に支えられた治療期間だったと思います。

精子細胞のストックを使い切り、2度目のTESEを視野に入れて
治療を継続しようかと考えていた矢先、ドクターストップがかかった
ということによって卒業のきっかけがつかめたのかもしれません。

未妊治療をどこまで続けるか、続けられるかという
未妊治療に足を踏み入れ、中々「妊娠」というゴールにたどり着けない方なら
一度は悩む「治療の継続」という問題は、ある意味あっさり解決してしまいました。

又、ストックを使い切った時に、主治医からはAIDを視野に入れることを勧められました。
これからのことを二人で話しあった時に、AIDを受けることを何度か
ダーと話し合ったこともありました。

子供がいないこれから先を考える時に、二人でたくさん話し、たくさん泣きました。
たくさん抱きしめあい、手をつないで眠るといういくつもの夜を過ごして行くうちに
ダーと私が拘ったのは自分たち二人の子供ということ、
ダーも私も未妊治療に係るサイトやブログで拝見するような
どうしても何としてでもあらゆる手段を使ってでも子供が欲しくて欲しくて
仕方が無いという「子供を産むこと、育てること」に拘っていないということを
改めて発見しました。

そして、夫婦二人と小さな家族で過ごしていく未来のイメージも
少しずつ描けてきていたのだと思います。

だからきっと、彼との子供をもう望めないということが決まった時点で、
人智を尽くし、天命を待った結果だと納得し、
ダーも私も未妊治療から完全に卒業するということを決められたのだと思います。

未妊治療は先の見えないトンネルであるという例えをよく耳にします。
まさにその通りだと思います。

ただ、未妊治療の出口は、妊娠することだけではないと思います。

治療を卒業した私には、妊娠すること・子供を持つことだけが女性にとっての、
夫婦にとっての幸せの形では無いと思うのです。

きっと人の数だけ幸せの形はあると思います。
自分の境遇を幸せだと自分自身が感じれたのなら、それが幸せなのだと思います。

今、ダーも私も幸せなんだなと心穏やかな日々を取り戻したことから
そう感じているのですから。。

未だにお子さんは?と聞かれてふと悲しくなってしまったり、
妊婦さんを見たり、小さいお子さんを連れているご夫婦を見ると、
時々、いいなぁ。羨ましいなぁ。もう少し治療やればよかった?
というような揺り戻しの気持ちが押し寄せてくることもあります。

でもそれは、時間が経過するにつれ、少なくなってきています。

確かに子供を持たない夫婦が、周囲からどういう風な目で見られるのか、
そして年を経るごとに夫婦二人きりで老いていくことへの心細さへの不安は
心のどこかに感じています。
それと同時に何とかなるだろ。悩んでもしょうがないという気持ちというか、
覚悟めいた気持ちも生じています。

今は、苦しかった治療から卒業してダーや小さな家族と過ごす時間、
おいしいものを一緒に食べたり、綺麗な景色を二人で眺めたりする時間を
本当に心から楽しんでいるのです。

そう感じるのは、きっと、未妊治療をした経験は決して無駄ではない、
あの苦しさを乗り越えられたからだと信じています。
そしてまた、未妊治療をすることによって、改めてふたりの絆や
相手を思いやることを深められたのだと思います。

今、未妊治療は社会的にも受容れられつつあり、一般化してきていると思います。
だからこそ、治療を受ける・受けない・続ける・辞めるという選択肢は
どれも大きな決断が必要だと思います。

だから、治療を受けることだけが「頑張る」ではないし、
未妊治療の出口は「妊娠」だけではないと思います。

最後に、未妊治療に立ち向かい頑張っている皆様に
卒業生としてラストメッセージを贈らせていただきます。

気持ちを押さえ込まなくていい。
他人を羨ましく思う自分が醜いってさげすまなくていい。
苦しくてどうしようも無くなったら一旦、逃げていい。
気持ちをリセットできたらまた、苦悩に立ち向かえばいい。

どんな形であれ、苦悩を乗り越えられた時には、
新たな違う自分がそこにいます。
だから泣くだけ泣いたらどうぞ、顔をあげてください。

最後に、皆様が望む結果が得られることを心から祈っています。
私が一番に願っているのは、皆様に多くの幸せがやってきてくれることです。

そして、たくさんの感謝を胸にダーと私は未妊治療を卒業します!
本当に本当に暖かくて心強い応援をありがとうございました!

2012.7.18
みい姫 拝

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