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1次試験結果
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一週間後、鍼治療を兼ねて検査結果を聞きに行った。
この日はいつもの治療に出かけるときよりも少し、緊張感が漂っていた。
やはり検査結果を聞くこと即ちこれからの方針がどうなるかが
決まってくるわけで少し緊張していた。
彼は、最初のセンター試験の結果を聞きに行くみたいだねと、
私の緊張をほぐすかのように笑って言った。
彼も緊張しているはずなのにと思うと彼の優しさが嬉しかった。
本当なら私がその役目をしなければならないのに。
改めて彼の強さを目の当たりにした気がする。
治療院に到着してしばらくするといつものように診察室に呼ばれた。
いつも通り、二人で診察室に入っていくと、先生はこれまたいつものように
元気一杯で「おはよう!」と挨拶された。
カルテを見ながら、検査結果出ているよ〜と、検査結果の紙を見せてくださった。
結果は良好だった。
心配していたFSHの値が、大学病院での検査結果に比べて3.5も下がっていた。
LHとPRLの値が前回よりも少し高めになっていたが、
心配するほどの値ではないようだ。
ただ、ここで一つ気になったのがテストステロン値。
前回の検査よりも少し下がっていた。
しかし、院長先生は彼の顔を見るなり、最近、忙しい?と尋ねられた。
確かに彼の仕事は忙しくなってきている。
帰宅時間が遅くなってきているのでその分睡眠時間も減っている。
そのことを伝えると、院長先生は
「やっぱりな〜。ゆっくり休むことも大事だからね。
身体をしっかり休めるんだよ。大丈夫。
疲れてなかったらもっとテストステロン値はいいからね。」と力強く仰った。
院長先生もほっとされたご様子で、
「よかったね。FSH値が10台に入ったということは円形細胞は確実に
出来てきているといえるからね。もう少し、がんばってみようね。」と仰った。
そして、様子を見ながら再度ホルモン検査をするか、精液検査をしてみるかを
決めることになった。
院長先生は今のFSHの値を見る限りだと精液中に音譜ちゃんが出てきていても
おかしくないと嬉しいことを仰ってくれた。
実際、他の方の例ではあるが、その方も同じ非閉塞性無精子症だったのにも
関わらず、精液検査をしたら音譜ちゃんが認められたそうだ。
その方よりも彼の睾丸所見はずっといいからもしかしたらも有り得ると仰っていた。
本当にそうなってくれたらありがたい。
彼は特にそう思っているらしい。睾丸を切らずに済んだらどれだけいいことか。
男性にとっては本当に怖い思いをするんだろうと思うと、
冗談半分のように彼は出てきてくれたらいいなと言うけれど、
実際は切実に願っているのだろう。
もし、精液検査で音譜ちゃんがお出ましになったら彼はその音譜ちゃんの
写真が欲しいと言っていた。
私がそう言い出すのなら分かるのだが、彼が言い出したことで少し驚いた。
なぜ?と尋ねると、未来に出会う我が子に、
これが生まれてくる前の君だよと言いたいらしい。
このまま順調に治療が進んで体外受精に行き着いたら、
受精卵の写真も記録として、そして我が子へのメッセージとして残したいそうだ。
自然に子どもを授かった場合は見ることが出来ない記録。
未妊治療を行っているからこそ知ることが出来ること。
ある意味未妊治療という壁に立ち向かっていく人々のご褒美なのかもしれない。
そう言って彼は笑う。
確かに生命の誕生の神秘はテレビなどのドキュメンタリーでお目にかかることは
出来ても自分たちの場合となるとそう簡単には見れない。
それを思うと、彼の言うことに暖かい気持ちになりながら
そうなってくれるといいなと心から願わずにはいられない。
まずは一次試験突破。
彼もほっとしたらしく、涙ぐんでいた。
もう少しだ。きっと神様は見守ってくれている。
努力した分、きっときっと報われる。そう信じて歩いていこう。
彼の努力と願いはきっと神様は報いてくれるに違いない。
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