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blueneko Voyage

TESEから細胞ICSIへ

bluecat

桜に送られて

首都圏に桜のシーズンが訪れた。
今年は開花宣言があってから寒い日が続き、桜は長い時間咲いてくれそうだ。
紀友則が
「久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 」
と歌ったように桜の花のシーズンはあっという間に終わってしまう。
しかし、今年は長い時間咲いてくれそうだ。
出来るのならTESEが終わるまで散らないで欲しい。
些細なことにまでげんを担ごうとしている自分が悲しくもありおかしかった。

審判の日でもあるTESEの日が刻々と近づいてきた。
桜が満開となるに連れて結果が桜咲くであるようにと咲き誇る桜に祈っていた。

そして首都圏の桜に見送られ、現地入りする日がやってきた。
空港に着いてからの彼の様子がおかしい。
ランチをとっていても視線が私を通り越してどこか別の場所を見ている。
言葉も異常に少ない。
必要以上に緊張しているようだ。

現地についてみるともう桜は散っているだろうかと思っていたが、
地元と同じく今が見頃の桜が美しく咲いていた。
なんだか明日の結果を予想してくれているようで気持ちが楽になる。
彼は、私を気遣ってか、観光する?と聞いてくれた。
んじゃ〜と観光に出かけようとしたが、彼の様子がやはりおかしいし、
明日はオペだ。二人ともとても観光という気分ではなかった。
そんな気分ではないでしょ?とりあえずホテルに行って、
荷物降ろしてゆっくりしよう?と聞くと、
うん。そうしてくれたら楽〜。と言った。

自分が一番緊張して落ち着かないのに人のことまで気を遣ってしまう彼に
嬉しい反面、呆れながらも二人とも初めての土地に戸惑いながら
ホテルに向かった。

ホテルに着いてしばらくしてから夕食に出かけた。
彼も私も楽しみにしていたご当地のラーメン(笑)
ホテルの従業員に聞いておいしいラーメン屋に行ってきた。
おいしいものを食べて少しはリラックスしたのだろうか?
少し彼の表情が和らぐ。
しかし、刻々と病院から指示が出ていた絶飲・絶食の時間が近づくにつれ
やはり言葉少なで、もう二度と飲み物を取れないからとばかりに、
ごくごくと水分をやたらととっていた。

もう明日には結果が出る。何ともいえない気持ちだ。

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運命の日

ついにオペ当日になった。
異様な空気のまま、病院に持って行くもの、彼の着替えを準備し、
二人で手をしっかりと握り合って電車に乗り歩いて病院に向かった。

来院予定時刻より早めについて受付を済ませ、待合室で待っていた。
しばらくすると受付スタッフが病院の紹介を兼ねたDVDを見て
待機するようにということだったので、別室に移動してDVDを見ていた。
そして1時間近く待った後、検査室に呼ばれ院長先生とお会いした。
ビデオで拝見したとおりの先生だった(当たり前だが)
オペ前に触診と超音波をかけられてチェックされた。
「硬さも大きさも悪くないね。染色体検査はしたの?」と尋ねられた。
染色体検査結果をお見せすると、じゃあ、がんばろうね。と仰った。
そして、眠っていたほうがいい?と麻酔のことを聞かれ
彼は「昨日も寝不足で緊張しているので眠らせてください」と頼み込んだ。
すると先生は「よし。分かった。ぐっすり眠りたいんだね?」と
冗談っぽく言われ、全身麻酔下でのオペと決まった。

その後、オペが終わった後に休憩する病室に案内され、
そこで彼は術着に着替え、待機となった。

オペ前に彼と過ごすわずかな時間。
手を握り締め、がんばってきてとしか言葉をかけられなかった。
大丈夫だよ。眠っている間に終わるからねと、彼は笑っていた。
後は任せるしかないもんと(笑)

しばらくすると看護師さんがやってきて点滴の準備をし始め、
無理やり引き離されるかのように看護師さんに即され、後ろ髪を惹かれる思いで
私は自分の検査のために中待合室に行った。
どうかどうか無事にオペが終わりますようにと祈る思いで病室を後にした。

私の身体には二人で子授け祈願をした神社のお守り、
ネットの友達から送られたお守り、彼の結婚指輪が身につけられていた。
人が見たらびっくりするだろう(笑)
持ち歩いているバッグの中にもお守り、こうのとりの携帯ストラップ。
神頼みしまくっているのがありありで自分でもおかしかった。
それでもお守りを肌につけていることでネットで知り合った
未妊の仲間の応援が聞こえてくるようで離せなかった。

彼は今頃どうしているのだろう?とどうしても気になる。
内診を受けるまでの時間が長い。
中待合室にいるのに、変だな?と思い、近くを通った看護師さんに
1時間以上待っていますが、まだでしょうか?と聞いた。
するとすぐに内診するとのことだった。

内診室に入ると看護師さんががん検査をするか尋ねられ、
ついでだからということでお願いした。
しばらくして院長先生がやってきた。
超音波で子宮の中を観察して、説明を聞いた。
「これが左の卵巣。これが子宮。
排卵、あったようだね。まもなく生理が来るね。こちらが右の卵巣だよ。
これ、子宮筋腫だね。」と仰った。
私は、え?筋腫?と不安げに聞き返すと、
先生は「大丈夫。これぐらいなら誰でも持っているからね。
とても綺麗な子宮だよ。これなら妊娠しやすいね。」と仰った。
私にも原因があると踏んでいたので褒められて少し嬉しかった。

内診が終わると看護師さんから、卵管造影をするから処置室に来てと言われ、
中に入ると、看護師さんから卵管造影の説明があった。
ビデオやそれまでの知識で知ってはいたが、実際体験となると緊張した。
卵管造影の際に入れる薬剤とのアレルギー反応を見るために採血をされ、
ついでに体外受精のための感染症の検査のために採血もされた。

術着に着替え、レントゲン室に向かいしばらくしてから卵管造影となった。
レントゲン台にあがり、薬剤が膣内に注入される。
下腹部が張って痛みも少しあった。でも耐えられた。
今頃彼はがんばっている。だったら私もがんばろう。
こんな痛みたいしたこと無い。

担当の先生が薬剤を注入しながら、綺麗に両方とも通っているねと仰っていた。
何の問題も無いよ。大丈夫。と仰った。
これで体外受精に向けての私の検査は終了した。

が、すぐに彼の病室には行けなかった。
その後、卵管造影の結果説明があり、未妊仲間から聞いていたとおり、
採卵までの説明や、薬剤の説明、遠隔治療となるために、
地元の病院の紹介などについての話だった。
待ち時間と合わせてかなりの時間を費やしてしまった。

彼はどうしているだろう?オペは終わったんだろうか?
そればかりが頭をよぎる。
余りにも長い時間彼と離れているため、落ち着きが無くなり、
看護師さんに彼は?と尋ねる自分がいた。
今オペが終わってもう少ししたら病室に戻られるようですよ。と教えてくれた。

卵の作り方の説明が終わり、ようやく病室に行っていいと言われたので、
飛んで彼の病室に行った。

そこにはうつろな表情の朦朧とした彼がいた。
物音で気付いたのか彼はうっすらと目を開けた。
大丈夫?お疲れ様。と言うと、彼は頷いた。
喉は渇いた?何か買ってこようか?と聞くと、また頷く。
ポカリ系の飲料水を買って戻ってくると彼は眠っていた。
病室についている冷蔵庫にしまい、しばらく彼の顔を眺めていた。

よくがんばったね。ありがとうね。
結果はまだ知らないけど二人でここまでたどり着いたよ。
そう、眠る彼に話しかけた。

しばらくして彼が目を覚ましナースコールで点滴が終わったことを告げた。
週末でかなり混雑しているせいか中々看護師さんはやってこない。
2回ほどナースコールをして点滴を抜いてもらった。

少しずつ麻酔が覚めていくようで指示に従ってゆっくりと起き上がり、
ふらつきが余り無いのを確認して着替えた。
そして飲み物を飲みしばらく待っていると、看護師さんが病室に来て、
結果説明までかなり待たなければならなくなったことを告げた。

かなりの時間、病室で過ごしているとようやく院長先生が、
看護師さんを連れて病室に入ってきた。
天国への扉が開かれるのかそれとも地獄への扉が開かれるのか
最後の審判の結果を携えて・・・。

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桜咲く

病室に入ってきた先生は開口一番、「厳しいです。」と仰った。
だめだったのか・・・。と自然と眉間に皺がよる。
こんなにつらい思いをして結果が最悪だっただなんて・・・。
その時、彼の表情を見ることができなかった。

しかし、続けて先生は
「ほとんど精子はいませんでした。しかし、15本何とか凍結できました。
受精する確率は10%、流産率は30%です。これを越えられたら後は
自然妊娠と変わりありません。

今回の凍結でがんばって顕微授精は3回までだと思います。
一回の体外受精で恐らく5〜6本使うことになるでしょう。
この確率を踏まえてICSIに挑戦していくか、AIDを考えるか、どうするか
お二人でゆっくり考えてみてくださいね。

何か分からないことがあったらメールください。」

と、あっという間に事実だけを告げお忙しいのか病室を後にされた。
ほんの5分もあっただろうか・・・。

いた・・・。いたのだ。
彼と私が生きた証となってくれる結晶へと導いてくれる大切な宝物の一つが。

空から見守ってくれている、いつか舞い降りてくれると信じている
二人の子供へ出会うために続く道が開かれたのだ。

しかし、二人ともこの事実を受け、喜びよりも安堵したというほうが
正しい感情の表現だと思う。
先に進めるとは言え厳しい現実には変わりなかった。
合格点ぎりぎりの「サクラサク」。
この事実の前では素直に喜べるという感情は無かった。

彼は7割がた諦めていたそうだ。
だから最初、先生が厳しいです。と仰った時は、やっぱりだめかと思ったそうだ。
でも15本凍結できたと告げられたことで
ようやく0点ではなく、15点取れた。ほっとしたよ。と話してくれた。

長い長い道のりを歩いてたどり着いた15点。
これほど重くて大切な15点はないと私は思う。
限られた可能性の中の15点だけどまだ先がある。
夢を現実とするための道がある。
おめでとうだよねと二人で笑った。

後日、TESEの結果、どんなものを凍結できたのか尋ねた。
未熟な後期精子細胞だったそうだ。
その結果、オペ直後の説明どおり、一回の顕微授精のために
凍結し保存されている後期精子細胞は5〜6本、使わざるをえないとの回答だった。

しかし、確かなことは彼が自ら痛みを伴って生み出してくれたこの結果は、
新たな長い旅路へのスタートとなる。
私たちの天使がくれたチャンスは3回。
厳しい現実かもしれない。
勝てる見込みの無いギャンブルなのかもしれない。
でも天使がくれたチャンスに賭けてみたい。
妊娠はミラクルなのだから。

最近、好きで聞いている歌がリフレインした。
「僕たちは幸せになる為にこの旅路を行く・・・」

この旅路はどんな結末を迎えるのだろうか。
幸せになるための旅路、私たち夫婦が望んでいる夢が現実となる
旅路となることを信じている。

夜桜〜Window La Moon夜桜〜Window La Moon
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