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受け入れ先を探せ
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彼のTESEが無事に終わり、私たちは先へ進める事になった。
先に進めるからと言って諸手を上げて喜べる状況ではなかった。
凍結できたものは未熟な後期精子細胞。かなり難しい状況であるということは、
相変わらず変わらなかった。
大丈夫。きっと何とかなると思いながらも一方では、厳しい現実を突きつけられ、
彼のいない一人の時間に涙することもしばしばあった。
でも何とか先に進める、ICSIに進めることは私たちにとっては
望みがまだ残されたということだ。
TESEを受ける前、私は精子が見つかったらすぐにでもICSIを受ける準備をしよう、
月よりの使者さんの到着を待ち遠しく思っていたのだが、
実際、TESEが終わってから思ってもみないほど早く到着した月よりの使者さんから、
さあ、あなたの番だよと、告げられると足がすくんでしまった。
彼にすぐにICSIに進むのちょっと怖いなぁと言うと、彼は
「TESEが無事に終わってほっとしたばかりだし、
そのまま勢いに乗って治療に進むのもかまわないけど、
気持ちがついていけないのなら少し休憩を入れてもいいんじゃない?
♪ちゃんの卵は、冷凍されて爆睡中だろうし、どこにも逃げやしないよ。
焦る必要はないんじゃない?
それになんだかんだ言っても疲れが出てきているだろうし、
ちょっと休憩するのも必要じゃないかな?」と、笑って受け止めてくれた。
治療に進むことに躊躇する理由は二つあった。
一つは、これからさき採卵やET(胚移植)を受ける病院は遠方の為、
排卵誘発をするための注射を受ける病院を探す必要があった。
この受け入れ先の病院を見つけていないことがまず一つ。
もう一つは、細胞ICSIという最先端の医療行為への畏怖というか、恐怖心があった。
何が怖い?と聞かれると困るのだが、頭では理解できている治療内容でも、
実際自分が受けるとなると全く初めてのことであり、
その治療に足を踏み入れることへの漠然とした恐怖としか言いようが無い。
この二つが主な理由だった。
今更ながらTESEを受けた彼の勇気はすごいと思った。
きっと今私が感じている感情を彼はずっと抱えていたのかもしれない。
自分がその立場に立って初めて彼の気持ちが分かるような気がした。
結局、2人で話し合った結果、
治療に向けてなるべく不安材料が無い状態にしよう。
まずは排卵誘発の為の病院を探し出すことが先決で、
見つかってから治療開始としようと言う事に落ち着いた。
病院探しスタートとなったのだが、病院の選び方が悩みとなってしまった。
A病院からいくつか排卵誘発の協力病院を紹介されていたのだが、
ARTをメインに取り扱っている病院、産科がメインの病院と混ざっていることに
気がついた。
どちらがいいんだろう?と疑問がわく。
ネットで未妊仲間に尋ねると、たくさんのアドバイスが返ってきた。
その答えを参考にしながら彼と検討して条件を決めていった。
A病院からの紹介先であるARTメインの病院に問い合わせてみたら、
HMGの注射に関しては快諾してもらえるものの、HCGという夜にうつ注射は
断られるというパターンに何度も遭遇した。
しかし、産科メインの病院だと夜勤体制が整っているので、
HCGまで対応可能とのことだった。
どちらを選ぶべきなのか迷いに迷う。
A病院からは必ずしも紹介した病院でなくても大丈夫とのことだったので、
再びネットで通勤圏内にある通えそうな病院を探すことにした。
いくつかの病院にコンタクトをとった中で、ある病院がOKの返事をくださった。
この病院は通勤圏内でかつ自宅寄りに位置しており、
地元でも有数の実績のあるARTをメインとした病院だった。
彼と一緒に週末、その病院に相談するという形で出かけた。
A病院からの紹介状を渡し、事情をお話ししようとすると、
余り詳しく事情を自分で説明することなしに、
(問診票に我が家の状況を簡単に書き込んでいたから把握されていたのだろう)
ドクターは穏やかな声で
「大丈夫ですよ。夜のHCGの注射もケアしますよ。」と
快く快諾してくださった。
そしてドクターから私の排卵誘発の計画についていくつか質問をされた。
上手く説明できたか分からなかったがドクターは、じっくりと耳を傾け、
紹介状の内容にも目を通しながら治療内容を把握なさっているようだった。
その後、私の体の状態を把握したいので内診とホルモン検査をすると仰った。
内診の際、A病院の院長先生と同じ見解を述べられていた。
内診が終わり、血液検査の為に別室に移動する前に、ドクターから、
ピルの服用期間が終わる少し前に一度来てくださいね。
ピルを服用した時の体の状態も把握しておきたいから。と、仰った。
その後、採血をしてその日の診療は終わりとなった。
これでようやく細胞ICSIに向けての準備は整ったことになる。
受け入れ先の病院が見つかったことで次の月よりの使者さん到着をもって、
治療スタートということになった。
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